研究成果紹介

◆ 関節と人工関節について

関節は、骨と骨とのつなぎ目で、そこで動かすことができます。動く範囲は関節ごとに違いますが、運動は滑らかで、痛みもありません。関節のうち、体重を支える股関節・膝関節・足関節などは荷重関節と呼ばれます。ふつうは、関節の存在を意識せずに自由に歩くことができます。この有り難さは、具合が悪くなると、よくわかります。
人工関節は、具合が悪くなった関節を切除し、その代わりに使う医療機器です。骨に固定する部分と、関節運動をする部分とからできています。股関節・膝関節では、多くの機種が製造され、骨へ固定する部分の材料・運動する部分(摺動面)の素材・全体の形状によって、色々なものがあります。骨に固定する部分には、生体となじみの良いチタン合金が多く使用されています。一方、摺動面には、ポリエチレン・コバルトクロム合金・セラミックスなどが使用されています。形状は対象とする関節によって違うことはもちろんですが、どの関節でも、正常な関節の構造をもとに設計されています。

1 長期耐用性をもつ人工関節

人工関節は、体内に入れてから長期間使用すると、骨に固定する部分に「ゆるみ」を生じることがあります。「ゆるみ」が進行すると人工関節を交換しなければなりません。交換までの期間はできるだけ長いことが望ましいので、様々な研究が行なわれてきました。
「ゆるみ」が起きる原因は様々ですが、その1つが、摺動面が摩耗して生じる小さな粉(摩耗粉)です。摩耗が速く進むほど、「ゆるみ」が生じやすくなることが明らかになっています。私たちは、摺動面の摩耗を少なくすることと、摩耗粉が体に悪影響を及ぼさないことを両立することができれば、人工関節の寿命(耐用年数)を長くできると考えました。
そこで、東京大学大学院工学系研究科 石原一彦教授が研究しておられるMPCポリマー*という物質に注目しました。MPCポリマーは私たちの体の細胞膜と似たリン脂質構造を持っていて、体になじみのよい(生体適合性の高い)物質です。このため様々な医療機器へ応用されているほか、シャンプーや化粧品など、身近なものにも使われています。

私たちは石原教授との共同研究を通じて、摺動面に使われているポリエチレンの表面にMPCポリマーを結合する技術を開発しました。これによって、摺動面の摩擦は著しく小さくなり、非常に摩耗しにくくなります。また、MPCポリマーが、体に悪影響を及ぼさないことも確認しています。
ヒトなど動物の関節では、表面にリン脂質があり、関節軟骨を保護するとともに滑りやすくしています。したがって、ポリエチレンの表面にMPCポリマーを結合するということは、人工関節を本来の関節により近い構造にしているとも言えます。
この研究は「ものづくり」を目指した産学連携へと発展します。日本メディカルマテリアル株式会社(現 京セラメディカル株式会社)(本社、大阪市)との共同研究によって、MPCポリマーを結合させた人工股関節用ライナーを創出し、治験を実施しました。その結果、2011年4月に厚生労働省から製造販売が承認され、2011年秋には全国の病院で使用できるようになりました。この製品によって、人工股関節は、より長持ちが期待できるようになると考えています。また、他の人工関節への応用に向けた基礎研究も行っています。
*MPC: 2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine

2 関節形態の三次元評価

関節の形は元々複雑な上に、外傷や病気による変化が加わっています。このため、関節の病気や外傷の診療に際しては、X線写真やCT画像などの平面(二次元)の情報をもとに、個々の医師が頭の中で立体像を作る必要がありました。
私たちは、医療チームの連携を高める目的で、術前のCT画像に基づいて、コンピューター上に三次元の画像を表示する技術(三次元再構築画像)や立体の骨モデルを作製する研究を行っています。この研究が診断に役立つことはもちろんですが、手術チームが同じ立体的なイメージを持つことは、複雑な手術を安全に行う上で大いに役立ちます。これまでに、関節の変形が高度な例での骨切り術や人工股関節全置換術など、従来の方法では術前評価が難しかった手術で応用し、有益な結果を得ています。

3 関節機能再建の長期戦略

股関節は骨盤にある寛骨臼という凹みに、大腿骨先端の球状の部分(大腿骨頭)が収まるようにしてできています。この寛骨臼の屋根に当たる部分を臼蓋といいますが、臼蓋の形成が不十分(臼蓋形成不全)だと、大腿骨とのかみ合わせが悪くなり、股関節痛や歩行障害の原因になります。
こういった臼蓋形成不全は日本人女性に多い病気です。私たちの先輩である田川宏先生(1928-1989)や二ノ宮節夫先生(1939-2008)は、こうした人たちが30代前後から症状に悩まされるのを救おうと、寛骨臼回転骨切り術(RAO)という手術を開発しました。この手術は寛骨臼の部分を丸く骨切りし、回転移動させて強固な屋根(臼蓋)を作り、正常な股関節の状態に近づけるものです。様々な工夫を加えられ、多くの病院で行なわれるようになっています。 私たちは、看護学の専門家とともに、こうした方たちの長期経過を調査するとともに、先の2で紹介した技術を応用する研究に取り組んでいます。こうした研究を通じて、臼蓋形成不全をもつ若い人たちを支えていくには、関節機能再建の長期戦略をどう組み立てたらよいか、現在のアートの範囲内ですが、明らかにしようとしています。